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マルファン症候群とは

疾患の特徴

マルファン症候群は、全身の結合組織の性状が生まれつき脆弱なために、心臓血管の症状、眼の症状、骨格の症状などを起こす疾患です。マルファン症候群は非常に高度な臨床的多様性と幅広い表現型をもち、同じマルファン症候群と診断された方同士あるいは同じ家族の中でも、あらわれる合併症の種類や時期、症状の程度はひとりひとり異なります。

心臓や血管の症状:マルファン症候群の患者さんにとって、もっとも生命予後に関わるのが心血管症状です。バルサルバ洞を含む上行大動脈の拡張、大動脈瘤・解離、僧帽弁逸脱、三尖弁逸脱、肺動脈拡張などがみられることがあります。
眼の症状:近視、水晶体偏位はマルファン症候群に特徴的な所見です。ほかに、網膜剥離、緑内障、早期白内障の発症リスクが高いとされています。
骨格系の症状:骨の過成長と関節の弛緩が特徴的です。体幹に対して手足が不均衡に長くなったり、漏斗胸や鳩胸がみられることもあります。脊柱側彎症は、軽度な場合から、重度で進行性の場合まで様々です。
・そのほか、硬膜拡張、ヘルニアや皮膚線条、自然気胸がみられることもあります。

原因遺伝子

・フィブリリン1をコードするFBN1 遺伝子にマルファン症候群の原因となるバリアント(変化)を持っている場合、マルファン症候群と診断されます。およそ5,000人に1人がこのバリアントをもっていると報告されており、頻度に男女差や人種の差はないといわれています。
・マルファン症候群の遺伝学的検査は保険収載されており、検査の際には医療機関受診と遺伝カウンセリングが必要です。

検査結果の解釈:VUSとは?
遺伝学的検査において検出される、遺伝子の変化のひとつにVUSがあります。

VUS(variant of uncertain significance)とは、現時点では病気と関連するかどうかを判断できるだけの十分な情報が集まっていない遺伝子の変化のことです。
・今後研究が進むにつれ、解釈が変わる可能性があります。解釈が変更されたかどうか知りたい時は、遺伝学的検査を受けた医療機関の主治医にご相談ください。
・遺伝学的検査によりVUSが検出された場合、ご本人の症状、家族の状況を踏まえて、今後の健康管理を検討していきます。

参考:日本遺伝カウンセリング学会HP http://www.jsgc.jp/tool.html

診断基準

2010年に改訂されたGhent基準(Loeys BL, et al. J Med Genet. 2010.)が世界的に用いられています。

家族歴がない場合 チェック欄
(1)大動脈基部病変1(Z≧2)+水晶体偏位
(2)大動脈基部病変(Z≧2)+FBN1遺伝子変異
(3)大動脈基部病変(Z≧2)+身体徴候(≧7点)
(4)水晶体偏位+大動脈病変と関連するFBN1遺伝子変異2
家族歴がある場合 チェック欄
(5)水晶体偏位+家族歴3
(6)身体徴候(≧7点)+家族歴
(7)大動脈基部病変(20歳以上 Z≧2、20歳未満 Z≧3)+家族歴

1 大動脈基部病変…大動脈基部径(バルサルバ洞径)の拡大(Zスコアで判定)、または大動脈基部解離
2 大動脈病変と関連するFBN1遺伝子変異…これまでに大動脈病変を有する患者で検出されたFBN1遺伝子変異
3 家族歴…前述の(1)~(4)により個別に診断された発端者を家族に有する

身体徴候:Systemic score
手首サイン陽性かつ親指サイン陽性(いずれか一方のみの場合) 3(1)
鳩胸(漏斗胸または胸部非対称のみの場合) 2(1)
後足部変形(扁平足のみの場合) 2(1)
肺気胸 2
脊髄硬膜拡張 2
寛骨臼突出 2
重度の側弯がない状態での、上節/下節比の低下+指極長/身長比の増大 1
側弯または胸腹部後弯 1
肘関節の伸展障害 1
顔貌特徴:長頭, 頬骨低形成, 眼球陥凹, 下顎後退症, 眼瞼裂外下方傾斜のうち3つ以上 1
皮膚線条 1
-3D以上(中等度~強度)の近視 1
僧帽弁逸脱 1
注:最大20点、7点以上で身体徴候ありと判定

臨床的マネジメント

対症療法

・循環器外科・内科、臨床遺伝センター、眼科、整形外科など、複数の専門科による多職種チームアプローチが必要です。
・大動脈瘤・解離に対しては、大動脈を人工血管に置き換える手術が必要になる場合があり、必要に応じて血管内治療もおこないます。大動脈解離が起こってからの緊急手術より、早期診断に基づく予防手術の方が成績が良いことがわかっています。弁膜症により心臓への負担が大きくなった場合には、弁の手術などが必要になることがあります。
・眼症状で最も多い近視に対しては、眼鏡の使用などで調整します。水晶体脱臼は水晶体摘出が必要となる場合もあり、人工水晶体の移植も行われます。
・側弯症に対しては、脊柱の外科的固定が必要となることがあります。症状の程度によっては、漏斗胸も外科的治療を要する場合があります。偏平足による下肢疲労や筋痙攣がみられる場合は、装具の使用が有効です。

一次症候の予防、サーベイランス

・マルファン症候群において、予後に最も大きく影響するのが心血管症状です。しかし、近年の診断と管理の進歩により、患者さんの予後は大幅に改善されました。症状がない、もしくは軽度なうちから定期的に経過観察を受け、必要に応じて病早期から適切な治療を行うことで、健康な毎日を過ごすことができます。
・すでに大動脈基部の拡張傾向がある場合、降圧薬による治療(β遮断薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB))により、血圧を下げ、大動脈拡張の進行を極力抑える必要があります。
・上行大動脈の状態を把握するための超音波検査は、毎年行います。大動脈基部の拡張傾向がみられる場合、明確な弁逆流が生じた場合などは、CT検査を含めたより頻回の観察が必要となります。小児・若年成人の場合、被曝が少ないMRIによる定期観察を行うこともあります。

日常生活での注意

・身体接触を伴う競技、関節の外傷や疼痛を引き起こすような活動を避けることが勧められます。特に、大動脈基部の拡張傾向がある場合、血圧が上がるような運動(重いものを持ち上げるなど)を避ける必要があります。気胸の再発の危険がある場合には、過度の怒責やスキューバダイビングなどを避けるべきです。スポーツへの参加や業務に関してご心配がある場合、専門医にご相談ください。
・妊娠・出産を検討しているマルファン症候群の女性は、内服薬の休薬タイミング(ARB等)や周産期管理について専門医にあらかじめ相談してください。

遺伝カウンセリング

・FBN1 遺伝子の病的バリアントは、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとり、親から子に50%の確率で伝わります。ただし、マルファン症候群の患者さんの約25%は、両親ともにマルファン症候群ではなく、その人に新たに遺伝子の変化が起こった(新生変異, de novo) と考えられます。そのような場合も、次の世代には50%の確率でバリアントが伝わります。

・発端者(家系の中で最初に診断された方)が遺伝学的検査を受け、FBN1 バリアントのどの位置に変化があるかという情報が分かっていれば、血縁者の方も遺伝学的検査によって遺伝的状態を明らかにすることが可能です。
遺伝カウンセリングでは、マルファン症候群のある方・マルファン症候群が疑われる方とそのご家族に対して、医学的な情報(疾患の概要、治療や管理の方法など)、家族への影響(遺伝形式、確率など)、心理社会的な情報などを提供し、今後の健康管理計画の作成、遺伝学的検査の受検、血縁者への伝え方の相談など、患者さんご本人と家族のこれからについて一緒に考えていきます。必要に応じて院内の各診療科と連携し、多職種によるチームでマルファン症候群の診療を行います。
・当院では、臨床遺伝センターにて、主に臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーが、遺伝カウンセリングを担当しています。当院臨床遺伝センターでのご相談は、原則事前予約となります。
【地域医療連携部】 TEL:072-804-2742
・臨床遺伝センターへのお問合せは以下のメールアドレスでも受け付けております。
E-mail:open-gc@hirakata.kmu.ac.jp

移行期医療

移行とは、小児を中心とした医療から成人を対象とした医療に切り替えていくプロセスであり、移行期とはその橋渡し期間をいいます。小児期・青年期に、身体所見あるいは家族歴によりマルファン症候群と診断された(疑われた)患者さんにおいても、成長に伴い、自らの健康管理スキルを身に着け、成人期の医療に対する心構えを習得し、ケアを中断することなく自立的に移行することが望ましいと考えられます。

・それまで小児科で継続した定期観察を受けていたマルファン症候群の患者さんが、青年期・成人期になり、進学や就職、それにともなう転居等のタイミングで受診を中断してしまうことが課題となっています。特に生命にかかわる心血管症状に対しては、無症状あるいは症状の程度が軽いうちから専門医による定期的な経過観察を継続していくことが何よりも重要です。それにより、症状の早期発見や早期の治療介入が可能になるからです。
・当院のKMUマルファン診療チームでは、こうした移行期のサポートについても、各診療科が一体となって取り組んでいきます。小児科を受診中、あるいは成人期のケアを受けるための移行先を探している患者さんがおられましたら、各診療科の担当医または臨床遺伝センターまでご相談ください。今後の健康管理計画について一緒に考えましょう。

マルファンとその関連疾患の情報

疾患の診断、治療の啓発、患者様とご家族間への支援を行う患者会・家族会の情報をご紹介致します。

日本マルファン協会
マルファン症候群 特定非営利活動法人日本マルファン協会 – marfan syndrome
マルファンネットワークジャパン
マルファン症候群 患者と家族の会 マルファンネットワークジャパン(marfan.gr.jp)
NPO法人 日本エーラス・ダンロス症候群協会 友の会
特定非営利活動法人 日本エーラス・ダンロス症候群協会 | Japan Ehlers-danlos syndrome Fellowship Association (ehlersdanlos-jp.net)
米国マルファン基金
The Marfan Foundation | Know the Signs | Fight for Victory

社会福祉制度が利用できる場合があります。詳しくは、主治医、病院のソーシャルワーカー、市町村の窓口等にご相談ください。

小児慢性特定疾病(18歳未満対象)
診断基準に当てはまれば、入院や外来等の費用補助を受けることができます。
小児慢性特定疾病情報センター|マルファン(Marfan)症候群(番号:30)
小児慢性特定疾病情報センター|エーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群(番号:31)
小児慢性特定疾病情報センター|ロイス・ディーツ症候群(番号:35)
指定難病
診断基準に当てはまり、病状の程度が一定以上の場合、医療費助成を受けることができます。
難病情報センター|マルファン症候群(指定難病167)
難病情報センター|エーラス・ダンロス症候群(指定難病168)

文献
当院におけるマルファン及びマルファン関連疾患の紹介
岡田隆之ら、心大動脈疾患の新たな展望:ゲノム解析とその臨床的意義

Medical Science Digest 50(1) 48-51, 2024 ニュー・サイエンス社

論文
Genetic Aortic Disease: Unraveling the Genetic Landscape of Marfan and Related Syndromes

Written By
Takayuki Okada, Chika Sato, Sayoko Haruyama, Saki Shimada, Phạm Thị Xuyên, Hiroyasu Tsukaguchi and Tadaaki Koyama

Submitted: 26 June 2024 Reviewed: 01 July 2024 Published: 07 August 2024

DOI: 10.5772/intechopen.1006141