閉じる

潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎とは

 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症を生じる指定難病です。血便や下痢、腹痛などの症状を繰り返し、再燃(症状が再び悪化すること)と寛解(症状が落ち着いていること)を繰り返す病気です。20~40歳代で発症することが多い一方、近年では高齢で発症する患者さんも増えています。
 近年は治療薬が大きく進歩し、多くの患者さんが症状をコントロールしながら、日常生活や仕事、学業を続けることが可能となりました。一方で、再燃を繰り返したり、多くの治療選択肢の中からどの治療法を選択すべきか悩まれたりする患者さんも少なくありません。
 当院では、一人ひとりの病状やライフスタイル、ご希望を大切にしながら適した治療を提案し、長期にわたって安心して治療を継続できる診療体制を整えています。

このような方はご相談ください

• 潰瘍性大腸炎と診断されて不安を感じている
• 血便や下痢が続いている
• 治療しているが症状が改善しない
• 生物学的製剤・JAK阻害薬について相談したい
• 妊娠・出産を考えている
• セカンドオピニオンを希望している

症状について

 多くの患者さんでは、血便や粘血便(血液に粘液〔透明でゼリー状の液〕が混じった便)がみられます。また、軟便や下痢、腹痛を伴うことも多く、炎症が強くなると発熱、脈が速くなる(頻脈)、貧血などの全身症状を認めることがあります。
 一方で、症状がほとんどないまま、人間ドックや健康診断で便潜血検査が陽性となり、その後に大腸内視鏡検査を受けて潰瘍性大腸炎と診断される患者さんもいます。
 血便が続く場合は、「痔だろう」と自己判断せず、消化器内科や肛門科を受診し、原因を調べることが大切です。早期に診断し適切な治療を開始することで、多くの患者さんで症状を改善し、良好な状態を維持することが可能になります。

診断方法

 潰瘍性大腸炎が疑われる場合は、まず大腸内視鏡検査を行います。内視鏡検査では、大腸粘膜の炎症の範囲や程度を詳しく観察するとともに、必要に応じて組織の一部を採取する生検検査を行います。採取した組織は病理学的検査(顕微鏡による検査)を行い、潰瘍性大腸炎に特徴的な炎症の有無を確認します。
 また、細菌による感染性腸炎など他の病気との鑑別を行うため、便培養検査(便の中に食中毒などの原因となる細菌がいないかを調べる検査)を行います。
 潰瘍性大腸炎には特定の一つの検査だけで診断できるものはなく、症状や内視鏡所見、病理学的検査、便検査などを総合的に評価して診断します。

 当院では、より詳しく炎症の状態を評価するため、便中カルプロテクチンなどの身体への負担が少ないバイオマーカー検査に加え、拡大内視鏡や超拡大内視鏡(Endocytoscopy)などの高精度な内視鏡検査を組み合わせて診断・治療方針を決定しています。超拡大内視鏡では、細胞レベルで粘膜を観察し、組織の炎症をリアルタイムに評価することが可能です。当院は、このような先進的な診断技術を診療に取り入れ、より正確な病状評価と、一人ひとりに合わせた治療につなげています。

日常生活について

 潰瘍性大腸炎は国の指定難病であるため、診断を受けた際に大きな不安やショックを感じる患者さんも少なくありません。しかし、適切な治療を続けることで、多くの患者さんは症状が安定し、普段と変わらない日常生活を送ることができます。実際に、多くの患者さんは通学や仕事を続けながら治療を受けており、体調が安定していれば運動も楽しむことができます。
 食事についても、「これを食べてはいけない」という絶対的な制限はありません。症状が安定している時期には、刺激の強い食品や脂肪分の多い食品などに注意しながら、比較的自由に食事を楽しむことができます。また、飲酒についても病状や服用中のお薬によって異なりますので、主治医にご相談ください。
 当院では、食事や栄養について不安のある患者さんには、管理栄養士による栄養相談も行っています。一人ひとりの病状や生活に合わせて、無理なく続けられる食生活をご提案します。

治療法について

 近年、潰瘍性大腸炎の治療は大きく進歩し、現在ではさまざまな治療薬を選択できるようになりました。そのため、病気の重症度だけでなく、年齢や生活スタイル、合併症、妊娠・出産の希望なども考慮しながら、一人ひとりに適した治療を選択することが重要です。当院では、患者さんと十分に相談し、それぞれの病状や生活に合わせた治療をご提案しています。
 潰瘍性大腸炎の治療の基本は、5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)とステロイド治療です。特に5-ASA製剤は、軽症から中等症の患者さんを中心に、多くの患者さんで長期にわたり使用される重要な治療薬です。実際には、5-ASA製剤を中心とした治療で病状が安定し、分子標的治療薬を使用せずに良好な状態を維持できる患者さんも少なくありません。
 一方で、これらの治療で十分な効果が得られない難治例(「難治例」の項目をご参照ください)では、生物学的製剤やJAK阻害薬、S1P受容体調節薬などの分子標的治療薬を用います。また、内科的治療で十分な効果が得られない場合や、副作用などにより治療の継続が困難な場合には、外科的治療(手術)を検討します。

5-ASA製剤

 5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)は、潰瘍性大腸炎の基本となる治療薬です。腸の炎症を抑える作用があり、軽症から中等症の患者さんを中心に広く使用されています。また、症状が改善した後も再燃を予防するため、多くの患者さんで長期間継続して使用されます。
 5-ASA製剤は、有効成分が大腸で直接作用して炎症を抑える、いわば「腸に対する塗り薬」のような薬です。炎症が直腸や左側結腸に限局している場合には、経口薬に加えて、あるいは単独で注腸製剤や坐剤を使用することで、より高い治療効果が期待できます。
 5-ASA製剤は比較的安全性の高い薬剤ですが、まれに服用開始後に下痢、腹痛、発熱などの症状が現れることがあります(5-ASA不耐症)。このような症状が現れた場合には、ご自身で判断せず、服用を中止して速やかに主治医へご相談ください。
 5-ASA製剤は、症状が改善した後も再燃を防ぐために継続することが大切な薬です。自己判断で中止せず、医師の指示に従って服用を続けましょう。

グルココルチコステロイド

 ステロイドは、中等症以上の活動性を有する潰瘍性大腸炎の患者さんに使用される治療薬です。経口薬、坐剤、注腸製剤、点滴(静注製剤)があり、病状や炎症の範囲に応じて使い分けます。直腸炎型や左側大腸炎型では坐剤や注腸製剤が、重症例では点滴製剤が用いられます。
 ステロイドは炎症を速やかに抑える効果に優れた薬剤ですが、再燃を予防する効果はありません。また、感染症、糖尿病、骨粗しょう症などの副作用があるため、症状が改善した後はできるだけ3か月以内を目安に減量・中止します。
 近年では、体内に吸収された後に速やかに肝臓で代謝され、全身への影響が少ないステロイド製剤であるブデソニドが使用できるようになりました。泡状の注腸製剤(ブデソニドフォーム)は、5-ASA製剤で十分な効果が得られない直腸炎型や左側大腸炎型に有効な場合があり、従来の注腸製剤より使用しやすいことも特徴です。また、ブデソニドの経口薬は、主に軽症から中等症の活動性が比較的低い患者さんに使用されます。
 ステロイドを減量すると再燃してしまう場合や、繰り返しステロイド治療が必要となる場合には、免疫調節薬や分子標的治療薬などへの治療変更を検討します。

難治例に対する治療法

 ステロイドを使用しても十分な効果が得られない場合をステロイド抵抗性、ステロイドを減量または中止すると再燃してしまう場合をステロイド依存性と呼びます。これらをあわせて難治例と呼び、5-ASA製剤やステロイドだけでは治療が難しい場合には、以下のような治療法を患者さんの病状に応じて選択します。

・チオプリン製剤
代表的な薬剤にアザチオプリン(イムラン®)があります。免疫の働きを調整する飲み薬で、主にステロイドを減量・中止した後の再燃予防や、ステロイド依存例で使用されます。効果が出るまでに時間がかかるため、すぐに症状を改善させる薬ではありません。副作用として、吐き気、肝機能障害、白血球減少、脱毛、膵炎などがあります。重い副作用のリスクは血液検査である程度予測できる場合があり、定期的な採血を行いながら慎重に使用します。

・血球成分吸着除去療法
血液中の炎症に関わる白血球の一部を取り除く治療です。腕の血管から血液を体外に取り出し、専用の装置を通してから体内に戻します。薬剤を体内に投与する治療ではないため、安全性が比較的高いことが特徴です。通常は週1回程度、複数回行いますが、病状によっては集中的に行うこともあります。特に中等症の患者さんで有効な場合があります。通院回数が多くなることや、血管確保が必要になる点が負担となることがあります。

・抗TNFα抗体製剤
比較的速やかに炎症を抑える必要がある患者さんに使用され、入院患者さんにも使用されます。TNFαという炎症を強く引き起こす物質を抑える生物学的製剤です。インフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)、ゴリムマブ(シンポニー®)などがあります。点滴製剤と皮下注射製剤があり、皮下注射製剤では自己注射が可能な薬剤もあります。比較的速やかな効果が期待でき、寛解導入だけでなく維持療法にも使用されます。一方で、感染症、投与時反応、注射部位反応などに注意が必要です。結核やB型肝炎などの確認を治療前に行います。

・抗インテグリン抗体製剤
感染症リスクをできるだけ少なくしたい患者さんで選択されることがあります。代表的な薬剤にベドリズマブがあります。炎症に関わるリンパ球が腸管へ入り込むのを抑える薬剤です。腸に比較的選択的に作用するため、全身性の免疫抑制が比較的少ないことが特徴です。点滴製剤と皮下注射製剤があり、寛解導入・維持療法に使用されます。効果はやや緩やかに現れることがあり、重症で急速な改善が必要な場合には他の薬剤が選択されることもあります。副作用として、感染症、投与時反応、注射部位反応などがあります。

・抗IL-12/23抗体・抗IL-23抗体製剤
ベドリズマブと同様に感染症リスクをできるだけ少なくしたい患者さんで選択されることがあります。炎症に関わるサイトカインであるIL-12、IL-23、またはIL-23を標的とする生物学的製剤です。ウステキヌマブはIL-12/23を、ミリキズマブ、グセルクマブ、リサンキズマブなどはIL-23経路を標的とします。点滴で治療を開始し、その後は皮下注射で維持する薬剤が多く、比較的安全性と継続性に優れた治療選択肢です。効果発現は薬剤や患者さんの状態によって異なります。副作用として、感染症、注射部位反応、アレルギー反応などに注意します。2026年の治療指針でも、生物学的製剤やJAK阻害薬、S1P受容体調節薬などが難治例治療の選択肢として位置づけられています。

・JAK阻害薬
経口薬ですが比較的活動性の高い患者さんに使用します。トファシチニブ、フィルゴチニブ、ウパダシチニブなどがありますが、トファシチニブ、ウパダシチニブは活動度の高い症例に使用することが多く、フィルゴチニブは他の2剤よりやや活動性の低い症例に使用します。
炎症を起こすサイトカインの情報伝達を細胞内で抑える飲み薬です。内服薬でありながら比較的速やかな効果が期待でき、注射や点滴を避けたい患者さんにとっても選択肢となります。一方で、帯状疱疹、感染症、脂質異常、血栓症、心血管イベントなどに注意が必要です。年齢、既往歴、喫煙歴、心血管リスクなどを考慮して慎重に選択します。妊娠している患者さんには使用できません。

・S1P受容体調節薬
やや症状が軽度で炎症が持続しているような患者さんに使用することが多いです。
炎症に関わるリンパ球がリンパ節から血液中へ出ていくのを抑え、腸管への炎症細胞の流入を減らす飲み薬です。代表的な薬剤にオザニモドとエトラシモドがあります。1日1回の内服で治療できることが大きな特徴です。副作用として、徐脈、肝機能障害、感染症、黄斑浮腫などに注意が必要で、治療前に心電図や血液検査、眼科的評価を行うことがあります。妊娠している患者さんには使用できません。

・どの治療法を使用すればよいのですか?
どの治療薬も「優劣」があるわけではなく、それぞれに得意とする病状や特徴があります。これらの治療薬にはそれぞれ特徴があり、「最も強い薬を使う」のではなく、病状、年齢、合併症、感染症リスク、通院しやすさ、妊娠・出産の希望、患者さんの生活スタイルなどを総合的に考えて選択することが大切です。当院では、治療効果だけでなく安全性や継続しやすさも重視し、一人ひとりに合った治療を提案しています。

診療の流れ

 潰瘍性大腸炎では、患者さんごとに病気の重症度や炎症の広がり、これまでの治療歴が異なるため、一人ひとりに合わせた診療が大切です。
当院では、まず問診を行い、現在の症状や生活への影響を詳しく確認します。さらに、血液検査、便検査(便中カルプロテクチンなど)、大腸内視鏡検査を組み合わせ、炎症の程度や広がりを総合的に評価します。

 その結果をもとに、病気の重症度だけでなく、年齢、合併症、妊娠・出産の希望、仕事や学業などの社会的背景も考慮しながら、一人ひとりに適した治療法をご提案します。

 症状が改善して寛解となった後も、再燃を予防するために治療を継続することが重要です。自己判断で治療を中断すると再燃する可能性が高くなるため、病状が安定していても定期的な診察を受けることをお勧めしています。
また、潰瘍性大腸炎では長期間炎症が続くと大腸癌を発症するリスクが高くなることが知られています。そのため、病状が安定している患者さんでも、定期的に大腸内視鏡検査を行い、癌や前癌病変を早期に発見することが大切です。

 現在の潰瘍性大腸炎診療では、「症状を改善すること」だけでなく、「腸の炎症を十分に抑えた状態を維持すること」が治療の目標となっています。炎症が長期間安定することで、再燃や入院、手術のリスクを減らすことができ、多くの患者さんが潰瘍性大腸炎のない方とほぼ変わらない日常生活を送ることが可能になります。

 私たちは、検査結果だけでなく、患者さん一人ひとりの生活や将来を見据えながら診療を行っています。たとえ病状が安定していても、不安なことや気になる症状、治療や日常生活について心配なことがありましたら、遠慮なくご相談ください。患者さんと一緒に考えながら、長期にわたって安心して治療を続けられるようサポートしていきます。

 潰瘍性大腸炎は長く付き合っていく病気ですが、一人で抱え込む必要はありません。私たちは、患者さんが病気と向き合いながらも、自分らしい生活を送れるよう、ともに歩んでいきたいと考えています。近年の治療の進歩により、多くの患者さんが仕事や学業、結婚、妊娠・出産など、それぞれの人生を大切にしながら生活されています。私たちは、病気を治療するだけでなく、そのような患者さん一人ひとりの人生を支える診療を目指しています。