集学的治療・診断部角膜センター
概要
患者のみなさんへ
角膜は身体の中で唯一透明な組織であり、体内で最も鋭敏な知覚を有する組織です。また、結膜と合わせて外界と接する眼の表面を形成し、異物より身体を守る免疫防御機構を担っています。角膜の病気としては、PC作業によるドライアイ、コンタクトレンズや外傷による感染症などが良く知られていますが、それ以外にも、全身の病気に角膜の病気が合併することがあります。
特色・強み
角膜疾患の診療に長年携わってきた経験を活かし、角膜のあらゆる病気の治療と予防に対して最良の方法の提供を目指しています。とくに角膜感染症に関しては、きわめて専門性の高い診療が可能です。
また、総合病院である強みを生かして全診療科と密な連携をとった上で、角膜疾患の発症予防、早期の治療を行います。
角結膜疾患に関して、点眼や内服などの局所治療で治癒できない患者さんに関しては、下記手術による治療も積極的に行っております。
i)角膜移植(全層および表層・深層・輪部・内皮などのパーツ移植)
ii)羊膜移植
なお、患者さんの体調、ご家庭の都合、ご希望など丁寧にお伺いした上で、手術に望みます。必要な費用や入院期間については、眼の状態や患者さんの全身状態によって異なりますので、医師にお尋ねください。
主な対象疾患
代表的な角膜の病気:
➀「ドライアイ」
ドライアイは、慢性的な眼の不快感を引き起こす主要な原因で、日本の疫学調査によれば、40歳以上の成人の約2割がドライアイと言われています。オフィスワーカーを対象とした研究では、全体の60%以上にものぼります。失明に繋がることはないものの、生活の質を長期にわたって損なう病気です。近年、ドライアイの研究や治療も大きく進歩しています。原因や症状に応じて、適切な治療法で症状の改善を図ります。
②「細菌性・真菌性角膜感染症」
不適切にコンタクトレンズを装用したり、ツキ目をした場合に起こります。視力低下につながることの多い重症の病気で、早期に適切な治療が必要です。近年はアカントアメーバによる角膜炎も多く、非常に治りにくい病気です。これまでの数多くの治療経験を強みとして、迅速な検査の上、各種自家調整剤(抗真菌剤・消毒剤点眼)なども駆使して、きれいに角膜が治ることをめざします。
③「ウイルス性角結膜炎」
アデノウイルスというウイルスによる流行性角結膜炎は、「はやりめ」と呼ばれており、大変よく伝染します。ひとりが感染すれば、たちまちご家族、職場と伝染するため、感染拡大予防が大切です。日本におけるアデノウイルス診療ガイドライン作成委員の1人である専門の医師が、適切な治療を行うと共に、感染予防についてもお伝えします。そのほか、ウイルス性の角結膜の病気としては、ヘルペスによるものも増えています。潜伏感染といって、疲れると何度も再発する病気ですので、専門的な施設での適切な治療と予防が必要です。
そのほか、遺伝性に角膜に濁りが生じる「角膜ジストロフィ」、自分の角膜を自分でやっつけてしまう抗体をつくる「周辺部潰瘍」、いろいろな原因で角膜に水がたまり透明性がなくなる「水疱性角膜症」などの病気があります。また、まれに眼表面にも「腫瘍」ができることがあります。当センターでは、これらいろいろな病気の診療・治療も行っております。
全身的な病気に合併する眼の病気
眼科以外の診療科で治療中の患者さんに対しても、それぞれの診療科と協力して全身疾患の治療を行いつつ、角膜疾患の治療や発症予防に取り組みます。
➀アトピー性皮膚炎に伴う「春季カタル」
皮膚科と連携して、免疫を抑える目薬を用い、副作用に注意しながら適切な治療を行います。また当院にはアレルギーセンターも設置されており、連携して全身的な治療を行えることも強みです。
②各種抗がん剤による角膜や結膜の異常
抗がん剤の中には、副作用として角膜上皮の正常な構造が乱れて、視力低下が起こることがあります。また涙が鼻へ流れる道が閉塞すると、眼表面に微生物も増えます。抗がん剤を投与する診療科より速やかに当センターへ連絡をもらい、定期的に診察、検査し、副作用の予防、早期発見、治療に努めます。
③高次脳機能障害における各種角膜障害
当院は三次救急を担う大学病院であるため、高次脳機能障害(脳出血、頭部外傷などによる)の患者さんも多く入院されています。このような患者さんは、眼の症状を訴えることができないのですが、眼の病気(兎眼や神経麻痺性角膜炎など)を伴うことがあります。そこで当センターでは、独自に開発中の「グローブシート」という眼の包帯を、本学倫理委員会の承認を受け、角膜混濁や角膜穿孔の発症予防に用います。意識のない患者さんが社会復帰された時のために、視力を保つことに務めます。
④角膜上皮幹細胞疲弊症
透明な角膜の上皮細胞(1番表面の細胞)の元になる細胞(幹細胞)が、下記のような原因でダメージを受けると、正常な角膜上皮細胞を作ることができなくなります。
・急性白血病に対する同種骨髄移植後の対宿主病
・市販感冒薬による皮膚粘膜症候群(ステイーブンス・ジョンソン症候群)
透明な角膜に、血管とともに結膜の細胞が入ってきて、黒めが白く濁ってしまい、大変な視力低下を来します。高度のドライアイや瞼がくっついて目があけられなくなることもあります。まだまだ予後の悪い病気の一つですので、当センターでは骨髄移植前から眼科モニターを開始させていただき、重症化の予防に努めます。