集学的治療・診断部腎センター
概要
患者のみなさんへ
現在、成人の8 人に1 人は透析予備軍である慢性腎臓病(CKD)です。またCKDは心臓病や脳卒中の原因にもなります。そのため、これらの患者さんに適切な治療を行うことが、より良い生活と長い寿命を維持するために重要です。その原因となる病気は様々ですが、高血圧や糖尿病といった生活習慣病をによって引き起こされたCKD患者さんが最多です。したがって、食事を含めた生活習慣の改善に取り組む必要があり、適切な治療のためには、多診療科、さらに多職種コメディカルの相互連携が重要となります。
腎センターでは、多診療科医師(腎泌尿器外科、腎臓内科、糖尿病科、健康科学センター)、看護師、運動療法指導士、管理栄養士、薬剤師などが垣根を越えて相互に協力し、各々の専門性を活かした診療を心がけています。
特色・強み
多診療科、多職種が協力してチーム医療を提供し、全人的なケアができるように努めています。現在、下記のものを中心に活動しています。
① 糖尿性腎症重症化予防
② CKD外来・入院教育
③ 腎代替療法選択外来
腎センターの取り組み
早期診断・予防への取り組み
腎不全進行予備群(慢性腎臓病 Chronic Kidney Disease, CKD1))の頻度は、成人の8人に1人といわれています2)。透析への進行以外にも、心血管病や骨・筋(サルコペニア、フレイル)などの全身合併症のリスクが高まるため、早期からの疾患対策が重要となっています。しかし一般に末期まで自覚症状が出ないため、進行予防には普段から定期的な腎機能や合併症モニターリングと、生活管理が大切となります。
CKDの治療や予防の中心は、食事、服薬、運動などの日常生活の自己管理です。そこで各分野の専門医に加えて、コメディカルが良好な腎機能を保つために必要な情報や助言を提供し、皆様の健康管理に貢献することが私たちのミッションと考えています。
【腎センターにおける透析予防のための取組】
①原疾患の早期診断・治療強化
②進行予防に重点を置いた診療、生活習慣改善、運動・食事療法の外来指導
北河内医療圏のCKD患者数の推定
Number of CKD patients in North Osaka
(北河内医療圏とは:枚方市、交野市、寝屋川市、四条畷市、守口市、門真市、大東市)
北河内医療圏 | 116万人 |
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枚方市 | 40万人 |
交野市 | 7万人 |
寝屋川市 | 23万人 |
四条畷市 | 5万人 |
守口市 | 14万人 |
門真市 | 12万人 |
大東市 | 12万人 |
北河内近隣 | |
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京都府八幡市 | 7万人 |
大阪市旭区 | 9万人 |
合計人口約132万人
CKD 透析予備群 約16万人
大阪府下腎臓内科専門医 445名3)
専門医一人あたり患者数 360名/医師
1.CKD(chronic kidney disease)慢性腎臓病。もともと米国で腎疾患の早期治療を実践するために提唱された概念。原疾患に限らず①eGFR(推定糸球体濾過率)60未満 and/or ②尿蛋白や血尿が持続することが、診断基準となる。将来透析を要する末期腎不全まで進行するリスクが高い腎疾患の一群をさす。
2.エビデンスに基づくCKDガイドライン2018 日本腎臓学会 第1章
3.日本腎臓学会ホームページ 腎臓専門医名簿より(2021年5月26日現在)
腎移植の選択を考慮した腎代替療法への取り組み
腎疾患における最も大きな問題のひとつは、末期腎不全まで進行すると腎代替療法(腎移植・透析)が必要となることです。我が国の透析導入数は年間約4万人で、最近数年間は横ばいとなっています。
一方腎代替療法の現状では、患者さんの94%は血液透析を、残りの数%が腹膜透析、腎移植を選択するのみで、大きな偏りがあります(2020年日本透析医学会集計)。
当院腎センターでは、腎移植を希望する患者さんへの情報提供(先行的腎移植、献腎登録を含む)また腎移植を受けられた患者さん(レシピエント)、さらに提供者(ドナー)についても、腎機能フォロー、合併症予防のための診療を行っています。
腎移植における外科・内科連携
腎移植前野療法選択の段階から外科・内科、ならびに外来病棟スタッフ間で、情報共有を行い、長期腎機能維持に必要な合併症を管理できるチーム診療体制を整えている。
文献
1) 矢西正明
腎移植患者のサルコペニアと栄養管理
第55回日本臨床腎移植学会 2022年2月 ワークショップ4 腎移植前後における内科的合併症の管理
2)矢西正明ら
腎臓移植内科医と移植外科医との協働 腎移植患者管理における腎センターの役割~腎臓内科医との連携~ 第54回 日本臨床腎移植学会 2021年2月 ワークショップ2
3)矢西正明ら
腎移植後のフレイルやサルコペニアと腎リハビリテーション
シンポジウムS18-5, 移植腎長期生着に対する方策:腎臓内科医は腎移植にどうかかわるか? 日本腎臓学会62(4)237,2020
活動目標
多診療科、多職種が協力して全人的チーム医療を提供するとともに、人材育成、基礎・臨床研究を通じて広く地域医療に貢献する。そのために必要な情報を共有しつつチームメンバー相互の信頼と協力を深め、医療の一層の向上を目指す。
具体的な取り組み
1. 腎移植医療の質の向上, 普及, 啓蒙
2. 地域連携の推進
① 糖尿性腎症重症化予防
② CKD外来・入院教育
③ 腎代替療法選択外来
3. 附属4病院連携(枚方・香里・滝井・くずは)
4.先端的医療の推進
がんゲノム、難病の診断と治療、新しい治療薬の治験
5.移行医療
CKDステージ、年齢、合併症(がん、心血管病、糖尿病など)を考慮して適切な専門診療科へと移行
腎センターの活動
研究助成
1)妊娠、出産希望腎不全患者の代替療法診療の向上をめざす医療チームの新たな構築と人材育成に関する看護研究 大阪腎臓バンク 2018年
2)多職種診療チームによる患者QOL向上を目指す腎代替医療の推進(2019年関西医大同窓会加多乃会・丹家雛子医療奨励賞)
3)関西医科大学付属3病院合同ワークショップ開催による透析予防外来看護師の実践能力の向上を目指して(2020年関西医大同窓会加多乃会・丹家雛子医療奨励賞)
関連診療部門との協力
腎センターの特徴
症状に応じて
腎臓病の特徴について
腎臓の役割は、①体内水分の調節、②老廃物の排泄、③酸塩基・電解質の調整、④造血ホルモンの分泌、⑤血圧調節、⑥ カルシウム吸収、など、生体の多岐にわたる機能を担っています。
腎の働きが失われると、自分で気づく症状、たとえば倦怠感、むくみ、血圧上昇等、が出現します。しかしこれらの“自覚症状は腎機能がかなり進行した状態まで出現しないこと”が、腎臓病の特徴です。つまり、“検査をしてみないと、どの程度進行しているのか、わからない”、ということです。
したがって定期検診等で尿検査や腎機能異常指摘された場合は、まずかかりつけ医と相談され、必要と判断されれば、専門医受診されることをお勧めしています。
腎機能の異常は、その発症部位により、腎前性、腎性、腎後性の大きく3つに分類されます。
腎前性は(腎より手前で起きる)ショックや脱水等の循環不全で腎への血流量が急激な低下し引き起こされます。
腎性は、代謝障害(糖尿病)、炎症(腎炎)、微小循環障害(腎硬化)で、腎臓自体が障害されて起こります。
腎後性は、腎臓がつくった尿が尿管、膀胱を経由して排泄される尿路に狭窄・閉塞があり、二次的に腎臓が障害される病態です。
一般に腎前性、腎性は腎臓内科、腎後性は腎泌尿器外科が担当しています。
浮腫・むくみ
腎臓病による浮腫は、尿蛋白陽性で腎機能低下を認めることが特徴です。高度蛋白尿(1日3.5g以上)が持続する場合は、血清アルブミンが低値(<3.0g/dl)となり、ネフローゼ症候群と呼ばれています。
ただし、肝臓病(肝硬変)、心臓病(心不全)でも浮腫は起こるため、これらの腎以外の疾患との鑑別が必要になります。
腎機能異常(検診)
最近の職場あるいは特定検診では、血清クレアチニン値と、それに基づく推定糸球体濾過率(e-GFR)の数値が記載されています。eGFR値が60ml/ min/1.73㎡ 未満数値が3か月以上持続する場合は、未治療であると腎機能障害が進行して透析へと進行するリスクがあります。
血尿・蛋白尿(検診)
IgA腎症などの慢性糸球体腎炎がまず疑われます。
軽度の蛋白尿、血尿であっても未治療であれば、腎機能障害が進行しうる場合があります。一般的に尿蛋白0.5g/gCr以上かつeGFR30ml/min/1.73㎡以上の場合は、腎生検所見を参考にした上で、副腎皮質ステロイド治療やレニンアンジオテンシン(RA)阻害薬による治療が推奨されます。
エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2020 Ⅳ治療、43-45頁
腎不全
推定糸球体濾過率(e-GFR)が30ml/min/1.73㎡未満CKDステージ4以降になると、高カリウム、貧血などの症状が出現してきます。
腎機能障害の進行を予防・抑止するための、生活管理(食事療法、運動量の調整)や専門医の定期診察を受けられることをお勧め致します。
のう胞
腎臓や肝臓に嚢胞が多発しており、家族歴(親、兄弟などに同じ症状を認める)がある場合は、常染色体優性遺伝型多発性嚢胞腎(ADPKD)の可能性があります。ADPKDには、嚢胞増大を抑止し、さらに腎不全への進行を遅らせる治療薬がありますので、専門外来を受診ください。
参考資料:患者さんとご家族のための多発性嚢胞腎(PKD)療養ガイド2019,ライフサイエンス出版
肉眼的血尿、検診尿潜血陽性
血尿は学校、職場健診で見つかる無症候性血尿と、上尿道感染などを契機として急激に発症する肉眼的血尿(発作)に大別されます。尿沈渣(顕微鏡で拡大)で赤血球に変形があったり円柱が共存する場合、また尿蛋白陽性を伴う場合では糸球体性疾患(腎炎)が疑われます。
50歳以上で、血尿のみ(赤血球の変形なし)を認める場合は、腎尿路系の腫瘍、結石、嚢胞などの疾患が疑われます。
高血圧
高血圧の90%以上は、原因がはっきりしない本態性高血圧です。しかし残り10%程度は、内分泌(副腎)、腎疾患(腎動脈狭窄、血管炎、嚢胞腎など)、薬剤などの原因があり高血圧が起こり、2次性高血圧と呼ばれます。30-40歳台で高血圧(130/80mmHg以上)を指摘されている、また急激な血圧上昇、高度の高血圧、低カリウム血症、尿所見(血尿・尿蛋白など)を認める場合は、受診をお勧めします。
参考資料:高血圧治療ガイドライン 2019 日本高血圧学会
腎尿路系腫瘍疑い(検診)
検診での検尿異常、画像検査(超音波)異常を指摘されておられた方の2次検診を行っています。
主な対象疾患
- 慢性腎不全
- 糖尿病性腎症
各種実績
- 外来糖尿病性腎症透析予防指導件数
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2015年度 46件 2016年度 105件 2017年度 169件 2018年度 168件(88件) 2019年度 202件(96件) 2020年度 219件(82件) 2021年度 209件(73件) 2022年度 334件(151件) 2023年度 296件(205件) ※2015年度は2015年1月~2016年3月までの15か月間の実績
※( )内 高度腎機能障害患者指導加算(運動療法) - 外来慢性腎臓病生活集団指導実施件数
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2015年度 20件 2016年度 37件 2017年度 24件 2018年度 37件 2019年度 19件 ※2015年度は2015年1月~2016年3月までの15か月間の実績
※2020年度~2023年度は実施なし - 腎移植実施件数
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2015年度 10件(生体腎10件、献腎0件) 2016年度 5件(生体腎4件、献腎1件) 2017年度 9件(生体8件、献腎1件) 2018年度 12件(生体12件、献腎0件) 2019年度 9件(生体9件、献腎0件) 2020年度 13件(生体13件、献腎0件) 2021年度 9件(生体9件、献腎0件) 2022年度 10件(生体10件、献腎0件) 2023年度 9件(生体9件、献腎0件) - 透析実施件数
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患者数 透析回数 一日平均 2015年度 586 2,730 8.7 2016年度 617 2,982 9.5 2017年度 588 2,751 8.8 2018年度 679 2,912 9.3 2019年度 426 2,928 9.4 2020年度 445 2,899 9.3 2021年度 462 3,113 10.0 2022年度 3,060 9.8 2023年度 3,171 10.1 - 腹膜透析導入件数
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2015年度 8件 2016年度 6件 2017年度 6件 2018年度 4件(維持10件) 2019年度 2件(維持9件) 2020年度 4件(維持9件) 2021年度 5件(維持9件) 2022年度 10件(維持6件) 2023年度 4件(維持5件) ※2015年度は2015年1月~2016年3月までの15か月間の実績
- バスキュラーアクセス造設術実施件数
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2015年度 62件(腎臓内科51件、腎泌尿器外科11件) 2016年度 66件(腎臓内科60件、腎泌尿器外科6件) 2017年度 39件(腎臓内科38件、腎泌尿器外科1件) 2018年度 37件(腎臓内科36件、腎泌尿器外科1件) 2019年度 45件(腎臓内科44件、腎泌尿器外科1件) 2020年度 40件(腎臓内科31件、心臓血管外科7件、循環器内科1件) 2021年度 43件(心臓血管外科のみ) 2022年度 46件(心臓血管外科のみ) 2023年度 48件(心臓血管外科のみ) ※2015年度は2015年1月~2016年3月までの15か月間の実績