潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎とは
慢性に粘血便や下痢、腹痛を認め、再発(症状が悪化すること)と寛解(症状がなく安定していること)を繰り返す病気です。20歳代から40歳代に発病することが多いですが、最近は高齢者で発症する患者さんも増えてきています。現在患者さんは日本全国で約20万人存在し、男性と女性の患者さんの割合はほぼ同じです。 根本的な原因がわかっていないため国の難病に指定されていますが、最近多くの治療法が開発されており、症状が安定している人も増えてきています。ただし定期的な診察や治療が必要になります。
症状について
多くの患者さんは血便、粘血便(透明の油のような液を含んだ血便)を認めます。また軟便や下痢、腹痛、重症になると発熱や頻脈、貧血なども認められるようになります。最近は人間ドッグや健康診断の便潜血検査陽性で大腸内視鏡を施行して、診断がなされることもあります。血便が持続する場合に、痔だと自己判断せず、一度消化器内科や肛門科の受診をすることが大切です。
診断方法
症状から潰瘍性大腸炎が疑われた場合に大腸内視鏡検査を行います。その際大腸粘膜より細胞を採取(生検検査)し病理学的な検査も同時に行います。また感染性腸炎などの他の疾患の鑑別を行うために便培養検査(便中に食中毒を起こすように菌が存在するかを確認)も行います。
また症状が安定した場合でも大腸の炎症が残存している場合もあるので、定期的に大腸内視鏡を行うことは必要ですが、最近便検査(便潜血定量検査・便中カルプロテクチン)により腸管炎症の程度を予測することが可能となっており、便検査を定期的に行うことも重要です。
日常生活について
国の難病に指定されているため、潰瘍性大腸炎と診断されるとショックを受けられる患者さんは少なからずいらっしゃいます。しかし70%以上の患者さんは症状が安定しているか、軽症の患者さんです。普通に通学や就業が可能な患者さんが大部分であり、運動も普通にできます。また食事についても症状が安定している患者さんは、多少の制限はありますがほぼ普通の食事を食べられますし、飲酒も可能です。不明な点は主治医とご相談ください。必要に応じて当院の管理栄養士による栄養相談を予定します。
治療法
腸管の炎症によって症状を生じますので、炎症を改善する治療法をおこないます。現在多くの治療法がありますが、基本的な治療薬は5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)とステロイドです。難治例(難治例の項目を参照)に対しては現在多くの治療法があります。内科的治療に抵抗もしくは副作用により治療継続が困難な場合には外科的治療(手術)がおこなわれます。
令和元年度 潰瘍性大腸炎治療指針より改変
5-ASA製剤
大きく分けて経口薬、注腸製剤、坐剤があります。経口薬にはサラゾピリン®、ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®の4種類があります。もともとサラゾピリンが最初に使用されていましたが、サラゾピリン®による副作用の発現が見られることから、副作用をおこす成分を取り除いた薬剤(ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®)が開発されてきました。比較的副作用が少なく安全に使用でき、軽症から中等症の第一選択肢として使用される薬剤です。また症状が改善・消失した後も再発予防のため、継続して使用されます。 炎症の範囲が肛門に近い直腸や左側大腸に炎症が限局している場合には、上記の経口薬に加えて、あるいは単独で注腸製剤や坐剤が使用されます。
5-ASA製剤は比較的安全性の高い薬剤ですが、服用直後に薬剤のアレルギーと考えられる下痢、腹痛、発熱などの症状がおこることがあります。多くの場合中止により症状は改善しますが、別の5-ASA製剤に変更しても同様の症状をおこすことがあります。5-ASA製剤開始後に発熱を伴う潰瘍性大腸炎の悪化のような症状がおこるようであれば、一度薬剤を中止して、速やかに外来受診することを勧めます。
ステロイド
中等症以上の活動性を有する患者さんに使用され、経口薬、坐剤、注腸製剤、静注製剤があります。坐剤、注腸製剤の適応は5-ASA製剤と同様で、静注製剤は入院患者さんに使用されます。炎症を改善させる速効性と確実性は極めて高く、有効な治療法ですが、下記に示すような副作用があるので、患者さんの状態を観察しながら注意して使用することが必要です。再発を予防する効果がないことや副作用の懸念より長期に使用されることはなく、約3ヶ月をめどに減量、中止します。
近年ステロイドの中で体内に吸収後速やかに肝臓で代謝され全身への影響が少ない製剤(ブデソニド)を経肛門的に投与するフォーム製剤(泡)が使用することが可能となり、5—ASA製剤で効果がない直腸炎型や左側大腸炎型に有効な症例もあります。製剤がフォームであることより従来の注腸製剤より入れやすいのが特徴です。 ステロイドを中止した後は、再発しないように5-ASA製剤を継続して服用することが大切です。ステロイドを減量してもすぐに再燃する場合や過去にステロイドを複数回していた場合には後ほど述べる免疫調節薬であるアザチオプリン(イムラン®)を使用する場合もあります。
難治例に対する治療法
ステロイドを使用しても効果がない場合、あるいは効果があってもその効果が弱く症状が残る場合をステロイド抵抗性と呼びます。またステロイドを減量や中止すると症状が悪化する場合をステロイド依存性と呼びます。ステロイド抵抗性とステロイド依存性を合わせて難治例とされており、ステロイド抵抗性に対する治療法は現在下記の8種類あり、ステロイド依存性に対する治療法はステロイド抵抗性に対する8種類の薬剤に加え、アザチオプリン(イムラン)を使用することが可能です。
以下に各種治療法の大まかな特徴を記載します。詳細な使用方法や有効性・副作用については担当の先生とご相談してください。