クローン病
クローン病とは
クローン病は口から肛門までの消化管のどこにでも炎症を起こす原因不明の慢性炎症性腸疾患です。特に小腸と大腸の境界部(回腸末端)に病変を認めることが多く、腹痛、下痢、体重減少、発熱などの症状を繰り返します。また、炎症が長期間続くことで狭窄や瘻孔(ろうこう)、膿瘍などの合併症を生じ、手術が必要となることがあります。
近年は治療法が大きく進歩し、適切な時期に適切な治療を開始することで、多くの患者さんが学校生活や仕事、スポーツ、妊娠・出産を含めた通常の生活を送ることが可能となっています。
当部門では、症状を改善するだけでなく、将来の手術や腸管障害をできるだけ防ぎ、長期にわたって良好な生活を送っていただくことを目標として診療しています。
このような方はご相談ください
• クローン病と診断されて不安を感じている
• 過去に痔瘻の既往がある方が下痢、腹痛が持続している
• 治療しているが症状が改善しない
• 生物学的製剤・JAK阻害薬について相談したい
• 妊娠・出産を考えている
• セカンドオピニオンを希望している
症状について
下痢、腹痛(特に右下腹部痛)、倦怠感などの症状を認めることが多くあります。また、肛門周囲膿瘍や痔瘻などの肛門病変をきっかけに、クローン病と診断されることも少なくありません。潰瘍性大腸炎のように血便や粘血便を認めることもありますが、その頻度はそれほど高くありません。
炎症が強くなったり、腸管に狭窄(腸が狭くなること)や膿瘍(お腹の中に膿がたまること)が生じたりすると、強い腹痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状が現れ、入院による治療が必要となることがあります。
特に若い方で、下痢が数か月以上続き、倦怠感、微熱、体重減少などを伴う場合には、クローン病をはじめとした炎症性腸疾患の可能性もあるため、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
早期に診断し適切な治療を開始することで、腸管の障害や手術を必要とするリスクを減らすことが期待できます。そのため、気になる症状が続く場合には早めの受診が大切です。

診断

クローン病では大腸だけでなく小腸にも病変を認めることが多いため、病変の広がりや炎症の程度を正確に評価することが重要です。
大腸内視鏡検査に加え、小腸を詳しく調べる検査を組み合わせることで、一人ひとりの病態に合わせた治療方針を決定します。
当部門では患者さんへの負担をできるだけ少なくしながら、必要に応じて以下の検査を組み合わせています。
• 大腸内視鏡検査
• カプセル小腸内視鏡
• バルーン小腸内視鏡
• MRエンテログラフィー
• CT検査・超音波検査
当院ではこれらのすべての検査を実施しており、小腸病変の詳細な評価や治療方針の決定に大きな役割を果たしています
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普通に生活はできますか?
クローン病は国の指定難病ですが、適切な治療を継続することで、多くの患者さんは学校生活や仕事を続けることができます。
食事や運動、妊娠・出産などについても、病状に応じて個別に対応することが可能です。必要に応じて栄養指導や外科、他診療科とも連携しながら、患者さん一人ひとりの生活を支えていきます。
私たちは、単に炎症を改善するだけではなく、「クローン病とともにより良く生きる」ことを患者さんとともに目指します。
治療法
現在ではクローン病に対してさまざまな治療法が使用できるようになりました。しかし、重要なのは「新しい薬を使うこと」ではなく、「患者さん一人ひとりの病状や生活に合わせて適切な治療を選択すること」です。
当部門では薬物療法、栄養療法、内視鏡治療、外科治療を適切に組み合わせながら診療を行っています。また、狭窄や肛門病変など内科治療だけでは対応が難しい場合には、同じフロアの消化管外科と密接に連携しながら診療を進めます。
当院では、食事や栄養について不安のある患者さんには、管理栄養士による栄養相談も行っています。一人ひとりの病状や生活に合わせて、無理なく続けられる食生活をご提案します。

栄養療法
栄養療法には、脂肪をほとんど含まない成分栄養剤(エレンタール®)や、カゼインや大豆タンパクを含む半消化態栄養剤(ラコール®)などがあります。病状が強い場合や合併症を伴う場合には、細いチューブを鼻から胃まで挿入して栄養剤を投与することもありますが、生物学的製剤などの治療法の進歩に伴い、この方法が必要となる患者さんは以前より少なくなっています。
栄養剤は消化・吸収されやすく、栄養状態の改善に役立つだけでなく、副作用が少ない安全性の高い治療法です。現在では単独で用いるよりも、薬物療法と組み合わせることで治療効果を高め、病状の安定や再燃予防を目的として活用されています。
5-ASA製剤
クローン病に対して使用可能な5-ASA製剤は経口薬であるサラゾピリン®、ペンタサ®のみです。ただしサラゾピリン®は大腸病変を有する症例にのみ使用されます。潰瘍性大腸炎に比べて、クローン病に対する5-ASA製剤の有効性は限定的なので、軽症の症例を中心に使用されることが多いです。
5-ASA製剤は比較的安全性の高い薬剤ですが、服用直後に薬剤のアレルギーと考えられる下痢、腹痛、発熱などの症状がおこることがあります。5-ASA製剤開始後に発熱を伴う病状の悪化のような症状がおこるようであれば、一度薬剤を中止して、速やかに外来受診することを勧めます。
グルココルチコステロイド
中等症以上の活動性を有する患者さんに使用され、経口薬および静注製剤があります。炎症を改善させる作用は強く有効な治療法ですが、潰瘍性大腸炎と比べ効果不十分となる症例や症状が改善されても内視鏡的に改善されない症例もあることより、プレドニンで症状を改善させたのち、免疫調節薬であるアザチオプリンを併用する場合が多いです。さらに治療効果が得られずに最終的に生物学的製剤を要する症例が多いのが現状です。
ブデソニドは小腸および結腸近位部にて放出するように設計された薬剤です。そのため炎症の好発部位である回腸末端から回盲部に病変を有する場合には、局所で強力な抗炎症作用を発揮すると考えられます。また肝臓で速やかに代謝を受けやすいため、全身への作用は弱く、プレドニンに比べてステロイドの副作用が少ないのが利点です。しかしステロイド製剤であることには変わりないため、離脱できない症例も少なからず存在するのが問題点です。
抗菌薬による治療
肛門周囲膿瘍や痔瘻などの肛門病変を有する場合、外科医による切開排膿やSeton術などの治療法がおこなわれますが、病変が複雑でない病変の場合抗菌薬による治療法がおこなわれることもあります。メトロニダゾール(フラジール®)やシプロフロキサシン(シプロキサン®)が使用されます。
難治例に対する治療
・抗TNFα抗体製剤
比較的速やかに炎症を抑える必要がある患者さんに使用され、入院患者さんにも使用されます。
TNFαという炎症を強く引き起こす物質を抑える生物学的製剤です。インフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)があります。点滴製剤と皮下注射製剤があり、皮下注射製剤では自己注射が可能な薬剤もあります。比較的速やかな効果が期待でき、寛解導入だけでなく維持療法にも使用されます。一方で、感染症、投与時反応、注射部位反応などに注意が必要です。結核やB型肝炎などの確認を治療前に行います。
・抗インテグリン抗体製剤
感染症リスクをできるだけ少なくしたい患者さんで選択されることがあります。
代表的な薬剤にベドリズマブがあります。炎症に関わるリンパ球が腸管へ入り込むのを抑える薬剤です。腸に比較的選択的に作用するため、全身性の免疫抑制が比較的少ないことが特徴です。点滴製剤と皮下注射製剤があり、寛解導入・維持療法に使用されます。効果はやや緩やかに現れることがあり、重症で急速な改善が必要な場合には他の薬剤が選択されることもあります。副作用として、感染症、投与時反応、注射部位反応などがあります。
・抗IL-12/23抗体・抗IL-23抗体製剤
ベドリズマブと同様に感染症リスクをできるだけ少なくしたい患者さんで選択されることがあります。炎症に関わるサイトカインであるIL-12、IL-23、またはIL-23を標的とする生物学的製剤です。ウステキヌマブはIL-12/23を、ミリキズマブ、グセルクマブ、リサンキズマブなどはIL-23経路を標的とします。点滴で治療を開始し、その後は皮下注射で維持する薬剤が多く、比較的安全性と継続性に優れた治療選択肢です。効果発現は薬剤や患者さんの状態によって異なります。副作用として、感染症、注射部位反応、アレルギー反応などに注意します。IL-23抗体製剤は抗TNFα抗体製剤を過去に使用された症例に対しても有効であるとされています。
・JAK阻害薬
経口薬ですが比較的活動性の高い患者さんに使用します。炎症を起こすサイトカインの情報伝達を細胞内で抑える飲み薬です。内服薬でありながら比較的速やかな効果が期待でき、注射や点滴を避けたい患者さんにとっても選択肢となります。一方で、帯状疱疹、感染症、脂質異常、血栓症、心血管イベントなどに注意が必要です。年齢、既往歴、喫煙歴、心血管リスクなどを考慮して慎重に選択します。

・血球成分吸着除去療法
血液中の炎症に関わる白血球の一部を取り除く治療です。腕の血管から血液を体外に取り出し、専用の装置を通してから体内に戻します。薬剤を体内に投与する治療ではないため、安全性が比較的高いことが特徴です。通常は週1回程度、複数回行いますが、病状によっては集中的に行うこともあります。特に中等症の患者さんで有効な場合があります。通院回数が多くなることや、血管確保が必要になる点が負担となることがあります。最近は生物学的製剤の普及にともない使用される症例は少なくなりました。
どの治療法を使用すればよいのですか?
どの治療薬も「優劣」があるわけではなく、それぞれに得意とする病状や特徴があります。これらの治療薬にはそれぞれ特徴があり、「最も強い薬を使う」のではなく、病状、年齢、合併症、感染症リスク、通院しやすさ、妊娠・出産の希望、患者さんの生活スタイルなどを総合的に考えて選択することが大切です。当院では、治療効果だけでなく安全性や継続しやすさも重視し、一人ひとりに合った治療を提案しています。
手術にはどのような治療がありますか?
クローン病では内科的治療が基本ですが、高度な狭窄、膿瘍、穿孔(膿瘍)、瘻孔などで手術が必要になることがあります。残念ながら内科治療が発達している現在でも、手術を要する症例も存在します。
小腸の場合は腸管切除を繰り返したり、広範囲な腸管切除により栄養吸収の問題などが生じることがあります。手術適応については消化管外科の医師と十分に議論をおこない、また外科医からも患者さんへ有益性や合併症について説明し対応しています。
手術を回避する方法はありませんか?
手術適応がある狭窄例、瘻孔形成例に対して、完全静脈栄養療法により症状が緩和され、短期的には手術を回避することも可能ですが、十分な摂食ができず、結局再発をきたし最終的に手術にいたる場合が多いのが現状です。
狭窄病変に対しては狭窄部に高度の潰瘍や瘻孔がなく、狭窄の長さが比較的短い場合には内視鏡的バルーン拡張術を行う場合もあります。

本邦の多施設共同研究による小腸狭窄病変に対するバルーン拡張術の成功率は90%以上であり、約70%の症例で症状の改善が認められており、狭窄病変に対する手術を回避する治療法として有用であると考えられます。
Treat to Target(T2T)という考え方
近年のクローン病診療では、「症状が良くなれば治療終了」という考え方から、「将来の手術や再燃を防ぐこと」を目標としたTreat to Target(T2T)が重要になっています。
腹痛や下痢が改善していても、腸の中では炎症が残っていることがあります。その状態を放置すると、時間の経過とともに狭窄や瘻孔が進行する可能性があります。
そのため当部門では、
• 症状
• 血液検査
• 便中マーカー
• 内視鏡検査
• 小腸画像検査
を総合的に評価し、炎症が十分に改善していることを確認しながら治療を進めています。症状だけでなく腸管の炎症そのものをコントロールすることで、再燃や入院、手術をできるだけ防ぎ、長期的な生活の質(QOL)の向上を目指しています。
診療の流れ
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1)診断
クローン病では、大腸だけでなく小腸にも病変を認めることが多いため、まず病変の部位や広がり、炎症の程度を詳しく評価します。当院では、大腸内視鏡検査に加え、カプセル小腸内視鏡、バルーン小腸内視鏡、CT・MRIなどを組み合わせ、一人ひとりの病態を総合的に評価します。
2)内科治療
診断後は、一人ひとりの病状に応じて最適な治療法を選択します。クローン病にはさまざまな治療法がありますが、「最も強い薬」を使用するのではなく、病変の部位や重症度、狭窄・瘻孔などの合併症、年齢、妊娠・出産の希望、生活スタイルなどを総合的に考慮して治療方針をご提案します。必要に応じて、薬物療法、栄養療法、内視鏡治療、外科治療を組み合わせながら診療を進めます。
また、近年のクローン病診療ではTreat to Targetという治療戦略が重要になっています。症状が改善していても腸の中には炎症が残っていることがあり、その状態を放置すると、狭窄や膿瘍、瘻孔などの合併症が進行し、手術が必要となる可能性があります。
そのため当院では、血液検査や便中マーカーなどのバイオマーカーに加え、内視鏡検査や画像検査を組み合わせて炎症が十分に改善していることを確認しながら治療を行っています。症状だけでなく腸管の炎症そのものをコントロールすることで、再燃や入院、手術をできるだけ防ぎ、長期的な生活の質(QOL)の維持・向上を目指しています。
3)外科と連携しながら腸を守ります
クローン病では、狭窄や瘻孔、膿瘍などの合併症が生じることがあります。当院では消化管外科と密接に連携し、必要に応じて内視鏡的バルーン拡張術や手術を適切なタイミングで行います。手術が必要となった場合でも、その後の再発予防まで見据え、内科・外科が協力しながら長期的な診療を行っています。
4)クローン病とともにより良く生きるために
クローン病は長く付き合っていく病気ですが、適切な治療を継続することで、多くの患者さんが学校生活や仕事、結婚、妊娠・出産など、充実した日常生活を送ることができます。
私たちは炎症を抑えることだけを目標とするのではなく、患者さん一人ひとりの人生に寄り添い、「クローン病とともにより良く生きる」ことを目標として診療しています。
私たちは炎症を抑えることだけでなく、患者さん一人ひとりの人生に寄り添い、「クローン病とともにより良く生きる」ことを目標として診療しています。