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クローン病

クローン病とは

慢性に下痢、腹痛を認め、再発(症状が悪化すること)と寛解(症状がなく安定していること)を繰り返す病気です。潰瘍性大腸炎と異なり消化管全体に病変は起こり得ますが、好発部位は回盲部付近(回腸末端から右側結腸)です。また肛門病変が認められるのも特徴です。発症年齢は10歳代から30歳代に発病することが多く、男性の方が女性よりも患者数は多いとされています。現在患者さんは日本全国で約4万人存在しています。

根本的な原因がわかっていないため国の難病に指定されていますが、最近多くの治療法が開発されており、症状が安定している人も増えてきています。ただし定期的な診察や治療が必要になります。

症状について

下痢、腹痛(特に右下腹部痛)、倦怠感などの症状を認めることが多く、肛門周囲膿瘍や痔瘻などの肛門病変の存在より、クローン病と診断されることもあります。潰瘍性大腸炎のような血便、粘血便を認めることもありますが、頻度は多くありません。腸管炎症が高度になったり、腸管の狭窄(狭くなること)、膿瘍(腹腔内に膿を形成すること)を認めるようになると、強い腹痛、嘔気、嘔吐、発熱の症状が認められるようになり、入院が必要となります。若い方が下痢症状が数ヶ月持続し、倦怠感、微熱、体重減少などの症状が認められたら、病院を受診されることが望まれます。

診断方法

クローン病では画像検査による診断が重要です。症状からクローン病が疑われた場合には、血液検査にて炎症や貧血、栄養状態を把握するとともに、大腸内視鏡検査により好発部位である回盲部の病変の炎症を確認することが必要です。また症状が強い場合にはCT やMRI検査により、狭窄や膿瘍の病変を確認する必要があります。

クローン病は炎症範囲により、小腸型、小腸大腸型、大腸型に分類され、うち小腸に病変を有する小腸型または小腸大腸型は全体の70%以上を占めるとされており、小腸病変の評価法は重要です。

小腸を検査する方法として、カプセル内視鏡、バルーン小腸内視鏡、小腸造影、CT/MRエンテログラフィーなどの検査法がありますが、当院ではカプセル内視鏡とバルーン小腸内視鏡を中心に施行しています。どちらの検査も利点と欠点がありますが、症状や患者さんの希望などを総合的に判断して検査法を選択していきます。

日常生活について

国の難病に指定されているため、クローン病と診断されるとショックを受けられる患者さんは少なからずいらっしゃいます。クローン病を発病して入院や手術にいたる例もあることは事実です。しかし診断初期に適切な治療を行うことにより、入院や手術にいたる確率を下げることは可能です。安定していれば、普通に通学や就業が可能であり、運動も普通にできます。クローン病の場合、脂質などの食事制限をすることが望ましいですが、安定している状態であればかなり通常の食事を食べることも可能です。不明な点は主治医とご相談ください。必要に応じて当院の管理栄養士による栄養相談を予定します。

治療法

腸管の炎症によって症状を生じますので、炎症を改善する治療法をおこないます。現在多くの治療法がありますが、基本的な治療薬は5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)とステロイドです。難治例(難治例の項目を参照)に対しては現在多くの治療法があります。内科的治療に抵抗もしくは副作用により治療継続が困難な場合には外科的治療(手術)がおこなわれます。

経腸栄養療法

経腸栄養療法には脂肪をほとんど含まない成分栄養剤であるエレンタール®や、カゼイン、大豆タンパクを含む半消化態栄養剤であるラコール®などがあります。活動度が高い場合や合併症を有する場合には経鼻的に細い管を胃まで到達させて、栄養剤を摂取する方法もあります。ただのちに述べる生物学的製剤の登場や医師・患者さんの治療に対する考え方の変化もあり、苦痛を伴う上記の方法は限られた症例に行うようになっています。 栄養剤は吸収されやすいように作られているため栄養状態の改善に有用であり、副作用もほとんどないため栄養療法が継続できる患者さんには安全な治療法であるといえます。薬物療法と併用することで治療効果を高めます。

5-ASA製剤

クローン病に対して使用可能な5-ASA製剤は経口薬であるサラゾピリン®、ペンタサ®、のみです。ただしサラゾピリン®は大腸病変を有する症例にのみ使用されます。潰瘍性大腸炎に比べて、クローン病に対する5-ASA製剤の有効性は限定的なので、軽症の症例を中心に使用されることが多いです。 5-ASA製剤は比較的安全性の高い薬剤ですが、服用直後に薬剤のアレルギーと考えられる下痢、腹痛、発熱などの症状がおこることがあります。多くの場合中止により症状は改善しますが、別の5-ASA製剤に変更しても同様の症状をおこすことがあります。5-ASA製剤を開始後に発熱を伴う下痢・腹痛の悪化が起こるようであれば、一度薬剤を中止して、速やかに外来受診することを勧めます。

ステロイド

1ブデソニド(ゼンタコート®)
ブデソニドは小腸および結腸近位部にて放出するように設計された薬剤です。そのため炎症の好発部位である回腸末端から回盲部に病変を有する場合には、局所で強力な抗炎症作用を発揮すると考えられます。また肝臓で速やかに代謝を受けやすいため、全身への作用は弱く、プレドニンに比べてステロイドの副作用が少ないのが利点です。しかしステロイド製剤であることには変わりないため、離脱できない症例も少なからず存在するのが問題点です。

2プレドニン(プレドニゾロン®)
中等症以上の活動性を有する患者さんに使用され、経口薬および静注製剤があります。炎症を改善させる作用は強く有効な治療法ですが、潰瘍性大腸炎と比べ効果不十分となる症例や症状が改善されても内視鏡的に改善されない症例もあることより、プレドニンで症状を改善させたのち、免疫調節薬であるアザチオプリンを併用する場合が多いです。さらに治療効果が得られずに最終的に生物学的製剤を要する症例が多いのが現状です。 また下記に示すような副作用があるので、患者さんの状態を観察しながら注意して使用することが必要です。再発を予防する効果がないことや副作用の懸念より長期に使用されることはなく、約3ヶ月をめどに減量、中止します。

抗菌薬による治療

肛門周囲膿瘍や痔瘻などの肛門病変を有する場合、外科医による切開排膿やSeton術などの治療法がおこなわれますが、病変が複雑でない病変の場合抗菌薬による治療法がおこなわれることもあります。メトロニダゾール(フラジール®)やシプロフロキサシン(シプロキサン®)が使用されます。

ステロイドや栄養療法で治療効果が得られない場合・効果不十分な場合。副作用などで使用できない場合の治療法

以下に各種治療法の大まかな特徴を記載します。詳細な使用方法や有効性・副作用については担当の先生とご相談してください

手術について

手術による治療

クローン病では内科的治療が基本ですが、高度な狭窄、膿瘍、穿孔(膿瘍)、瘻孔などで手術が必要になることがあります。残念ながら内科治療が発達している現在でも、手術を要する症例も存在します。 小腸の場合は腸管切除を繰り返したり、広範囲な腸管切除により栄養吸収の問題などが生じることがあります。手術適応については消化管外科の医師と十分に議論をおこない、また外科医からも患者さんへ有益性や合併症について説明し対応しています。

手術を回避する方法

手術適応がある狭窄例、瘻孔形成例に対して、完全静脈栄養療法により症状が緩和され、短期的には手術を回避することも可能ですが、十分な接食ができず、結局再発をきたし最終的に手術にいたる場合が多いのが現状です。狭窄病変に対しては狭窄部に高度の潰瘍や瘻孔がなく、狭窄の長さが比較的短い場合には内視鏡的バルーン拡張術を行う場合もあります。

本邦の多施設共同研究による小腸狭窄病変に対するバルーン拡張術の成功率は90%以上であり、約70%の症例で症状の改善が認められており、狭窄病変に対する手術を回避する治療法として有用であると考えられます。