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トピックス 2023/10/18 小児科

起立性調節障害を運動で治療

起立性調節障害に対して、薬物療法よりも有効性の高い、小児科の診療「水分摂取と運動療法」についてご紹介します。

起立性調節障害について

起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation: OD)は自律神経の失調によって起立時の循環動態の変化に対する調節機能がうまく働かず、脳血流が低下する疾患です。その結果、たちくらみ、起床困難、嘔気、食欲不振、全身倦怠感、頭痛、腹痛など多彩な症状を呈します。症状は午前中に強く出現し、午後から夜にかけて軽快します。身長の伸びや二次性徴の出現など、身体の成長が著しい学童・思春期に好発します。
もともと発症しやすい素因、精神的なストレス、寝たきりなどによる活動量低下、急激な体重減少などが発症の原因となります。診断は起立試験を用い、他の身体疾患が否定され、起立試験で基準を満たす血圧の低下、心拍数の上昇があればODと診断されます。
生命予後は良好ですが症状は年単位にわたって続くことがあり、長期間にわたって症状とつきあっていく必要があります。また、学童・思春期に発症するODはその症状のために不登校を引き起こします。このため、ODは身体治療のみならず、不登校などに対する心理・社会的な治療も要することがあります。

日本小児心身医学会編集 小児心身医学会ガイドライン集 日常診療に活かす5つのガイドライン 改訂第2版 南江堂(東京) 2015 p47より転載

起立性調節障害に対する水分摂取の有効性

海外のHeart Rhythm SocietyによるExpert consensusでは、水分摂取と運動は、薬物療法よりもエビデンスレベルが高く、薬物療法より水分摂取と運動療法を高く推奨されています。そして、水分摂取が800mL/日の小児はODの発症リスクが4倍になるとの報告があります。
ODのメインの病態は「脳血流の低下」であり、起立時に顕著になります。脳血流改善のためには循環血漿量の増加が必要であり、水分摂取は循環血漿量を増加させる有効かつ簡便な方法です。ODの病態をペットモデルで示すと動画のようになります。薬物療法(昇圧薬)は「ペットボトルを外から押すだけ」の役割であり、中の水の量が少ないと、どれだけ外から強く押しても、蓋の部分(頭部・脳)に水が上がりません。これは循環血漿量が少ないと、どれだけ強く昇圧しても脳血流は増加しないことを示しています。そのため、循環血漿量の増加(水分摂取or生理食塩水点滴)はODの治療では最優先事項となります。
本邦におけるOD診療ガイドラインでは体重40kg以上の小児は2L/日、40kg未満では1.5L/日以上の水分摂取が推奨されています。一方で海外の論文では男児 3-3.5L/日、女児2.5-3.0L/日の水分摂取が推奨されています。尿の色が透明であることは、水分摂取が良好である目安となります。

水分が足りているとき

水分が足りないとき

起立性調節障害の運動療法

海外のHeart Rhythm SocietyによるExpert consensusでは、水分摂取と運動は、薬物療法よりもエビデンスレベルが高く、薬物療法より水分摂取と運動療法を高く推奨されています。そして海外の論文ではOD児に推奨される具体的な運動療法として、1)運動負荷量の決定は心肺機能試験により心拍数を指標とした最高酸素摂取量70%程度の負荷、2)臥位もしくは半臥位から開始、3)構成はウォームアップ、運動、クールダウンの三相、4)運動耐性が上がれば、運動強度・時間を上げるとしています。つまりはリカンベントバイク等を用いた下肢の運動を臥位もしくは半臥位で開始し、徐々に運動強度を上げていくことが望ましということです。
関西医科大学総合医療センター小児科ではベッド上の臥位から始められるOD児の運動療法と機器開発に取り組んでおり、ベッド上臥位でエルゴメーター運動を開始し、運動にかかる負荷と臥位から半臥位へと体位をかえて行きます。